Interview
大矢真梨子 さん|写真家
光を繊細に捉え、美しい色彩感覚で満たされた世界観で人気を集めている、写真家の大矢真梨子さん。今回、そんな大矢さんの写真が、7nanaとのコラボレーションによってジェルネイルシールになりました。花や水面といった、これまで大矢さんが大切に撮ってきたモチーフが爪を彩ります。カメラのシャッターを切る際に抱いている思いや、ネイルシールの仕上がりへの感想を、大矢さんに聞きました。
取材・文:岸野恵加
■写真を撮ることで、心に光を当てている
──写真に興味を持ったのは、いつ頃、どんなきっかけでしたか?
自分でカメラを使うようになったのは、高校生ぐらいの頃です。写ルンですのようなインスタントカメラが最初でした。その頃は何かを創造したい思いがあって、美術部で絵を描いていたりもしました。それとは別で自分だけの何かを見つけたくて、カメラを手に取ったような気がします。今のような作品とは全く違う使い方で、日常の何でもない断片を撮ったりして、それが小さな楽しみになっていました。
──それで、大学では写真学科に進んだんですね。
はい。大学院まで写真を学びました。学生時代は技術ももちろん学んでいたのですが、自分の世界を追求することに重きを置いて、ずっと作品づくりをしていました。周りの同級生は商業的なカメラマンになる人が多い中で、私は写真作家として生きていきたいという思いが強かったです。卒業後も作品づくりを続け、様々な方に作品を見ていただいたりしていた繋がりで、次第にお仕事として依頼をいただくようになったかたちです。
──展覧会をよく開かれていますが、集中して作品を撮りだめて、集まってきたら展示をするような活動のサイクルなのでしょうか?
グループ展にはありがたいことに比較的よく参加させていただいているのですが、個展としてはそれほど多く開催しているわけではないです。“撮る”ことは常日頃からしていて、作品が1つのシリーズとして成立できるレベルになったら、個展として発表しています。
──人物ではなく、自然や風景を捉えた作品が多いですが、被写体としてそうしたものを選んでいるのはなぜでしょうか?
仕事では人物を撮ることもあるのですが、自分の作品で人を撮ることはほとんどなく、自然や街並みなどが多いです。人を撮るにはコミュニケーションが大事だと思いますが、私はそれが少し苦手で、どちらかというと、自分と向き合って撮ることのほうが重要だと感じています。その原点になっているのが、学生時代の寄宿舎生活の経験です。私は中学1年生から高校3年生まで、親元から離れてカトリックの女子校で寄宿舎生活を送っていたのですが、そのときの経験が自分の人生の中ですごく辛かった記憶として残っているんです。一方で、あの時代があったからこそ、今こうして写真を通して表現することができているので、複雑な心情でもあります。
──閉鎖的な環境が辛かったのでしょうか?
はい。毎日心の中は真っ暗でした。楽しい、嬉しいという、明るい感情はいつしかなくなっていました。普通だったら中学高校は輝かしい青春時代だと思うのですが、その時期をそんなふうに過ごしてしまったので、卒業してもそれは拭えず、生き方がわからないような、自分の中に暗い部分がある感覚をずっと持っています。自分にとって写真を撮る行為は、そんな暗い心に光を当て彩生していく、生きる術になっています。
──大矢さんの作品では、光がとても印象的に捉えられていますよね。
私の写真は光が強かったり彩度が高いので、一見「明るくて可愛らしい」という印象を持っていただくことが多いのですが、私にはその自覚はありません。むしろその印象とは逆のところに私はいて、明るさを失った自分自身の内面に、光や色彩を強く求めることの表れが、今の作風になっています。
──撮ることで、自分の中に癒しが生まれる感覚がある?
逆に言うと、撮らないと苦しくなってくる。写真を撮ることで息をしているような感覚があります。
■天気がいい日は、撮りたくてうずうず
──撮影の際はさまざまな場所に足を運ぶんですか?
自分の生活圏内が多いですが、いろいろなところに行きます。お気に入りの場所に行ったり、調べて新しい場所に行ってみたり。「これを撮りたい」というよりは、行った先で感じたものを撮るスタイルです。
──先ほど「常に撮っている」とおっしゃっていましたが、オンとオフの切り替えはどのようにしていますか。
休日……というのがどういう感覚か、正直わからないかもしれないです。例えば友達と会う予定が入っていたら、その日はカメラを持たないので休日になるんですけど、何も仕事が入っていなくても、写真を撮らないと苦しくなってきます。予定が入っている日も、天気がいいと「もったいないな、写真撮りに行けたな」とうずうずしてしまいます。私のスマホには天気予報のアプリがたくさん入っています(笑)。
──なるほど(笑)。ちなみに大矢さんが使用するカメラは、フィルムですか? デジタルですか?
自分の作品はフィルムカメラで撮っています。
──では、たくさんシャッターを切るというよりは、「今だ」という瞬間をここぞと押さえるような感覚ですか?
どちらかというとそうです。現像してみて、想像と違うこともありますが、想像以上のものが出てきたりもするので、撮ってみないとわからないところがフィルムは面白いです。
──これまでに撮った作品の中で、印象に残っている作品はどれでしょう?
NEWoMan横浜とのコラボレーションで作った、水面を捉えた作品です。赤レンガ倉庫のオレンジ色が水面に映り込んでいる、長辺2mくらいある大きなものです。その作品を買ってくださった方がいて、ずっとどなたかわからなかったのですが、今年知り合いがとある場所で飾られているのを見つけてくれて、それがすごく嬉しかったです。
──写真を撮る動機としては、自分の心の整理という意味合いが強いけれども、作品が誰かの心に届いたり、リアクションがあると、やはりそれもモチベーションになるものですか。
はい。心に響いてくださるものがあるならば、嬉しいなと思います。
──色や光の捉え方がとても素敵ですが、そうしたセンスは昔からお持ちだったんですか?
自分ではよくわからないですが、おそらく母親の影響は受けていると思います。母の色彩感覚やバランス感覚は、大人になった今も見習うところがあります。身近なことで言うと、洋服を選んだりするのも、私には楽しくもあり勉強のひとつのようで、母の買い物に一緒について行きます。そうやって何かを選ぶ基準というか指標が、知らず知らずに小さな頃から培われていたのかもしれません。
──今後、写真を通してやってみたいことや目標はありますか?
やはり、もっとたくさんの人に作品を見てもらいたいという気持ちはあります。海外での展示などもいつか実現させたいです。
■オリジナルの10本を楽しんで
──広がりを求めている、と。そういう面では、今回の7nanaとのコラボレーションも、新たな挑戦ですよね。写真をもとにしたネイルシールというのは珍しいと思いますが、オファーをもらった際にはどう感じましたか?
すごく嬉しかったです。私も写真を元にしたネイルは見たことがなかったので、どんなふうになるんだろう、と思いました。以前、展示を見に来てくださった方に「写真がネイルになっていたらいいですよね」と言っていただいたことがあり、そういう方の声が実現する喜びもありました。
──制作にあたっては、大矢さんが3、40点の作品を渡し、ネイリストさんがデザインを作られたとお聞きしました。デザインは「Blossom」「Gradation」「Water Surface」の3種類ですね。提供する作品はどのように選んだのでしょうか?
爪にあしらわれたときに映えそうな作品はどれかなと考えて、セレクトしました。私は花と水面をよく撮影のモチーフとしているんですが、「Blossom」と「Gradation」は花の写真、「Water Surface」は水面の写真をそれぞれあしらっています。それぞれのデザインは、様々な作品を組み合わせて構成してくださっています。
──特にお気に入りのデザインはありますか?
私は「Gradation」が特に好きです。ピンクと黄色がこのデザインの印象的なカラーだと思うのですが、作品と同じような気持ちからか、より明るく華やかな色が目に付きます。シート上で見るのと着用した時とはまた少し印象が変わって、グラデーションの微妙なニュアンスが美しいなと感じました。
Gradation
──透明感のある仕上がりで、着用すると肌に馴染む印象がありますね。「Blossom」はその名の通り、お花があしらわれた華やかな仕上がりです。
着用すると全然イメージが変わって驚きました。少しモネの絵画のような印象もあります。花はいろいろ撮りますが、バラが一番好きです。学生時代のカトリック教育の影響から、バラの花には特別な思いがあり、一番“自分の花” として思い入れがあります。水色の無地のシールは、ネイリストさんが差し色で入れてくださいました。
Blossom
──「Water Surface」は他の2枚とは少し印象が異なり、静謐でクールな雰囲気ですね。
はい。こちらは関東近郊の川や池で撮った写真です。水面は光が強く揺らぐ感じが、自分の強さと弱さが揺らぐ感情に重なるような感覚があって、好きなモチーフです。このシリーズにだけ箔をのせていただいたのですが、それもキラッとして大人っぽさとカッコ良さが出ていると思います。個人的にはこういったクールカラーのネイルは滅多に選ばないのですが、モデルさんの着用写真を拝見して、想像以上に素敵で新しい感じがしたので、使ってみたいなと思いました。
Water Surface
──ちなみに普段、大矢さんはネイルをどのように楽しんでいますか?
爪が伸びてくるのがすごく気になってしまい、すぐに切ってしまうので、ネイルは何かイベントごとの時などにしか着けられません。今回シールタイプを初めて使わせていただいて、ジェルネイルをしてもらったような仕上がりが簡単にきれいに完成するのが、とても良いなと思いました。これなら普段からネイルをマメにできる気がしています。
──ポリッシュだと、塗る時にはみ出てしまったりしますもんね。
ネイルポリッシュは利き手じゃないほうの手で塗るのが苦手です。ネイルシールだと失敗することもなく、両方の爪をきれいに貼れるのが嬉しかったです。
──お仕事柄、手元を見ることが多いと思いますが、ネイルをしていると、どのような気持ちの変化がありますか?
指先が華やかだと、やっぱり気分が上がります。人がしているネイルを見るのも好きです。電車の中で素敵なネイルの人がいたらつい見てしまうし、身近な人のネイルもよく見せてもらいます。母もネイルを自分でやっていたので、今度会ったら7nanaさんのシールを教えてあげたいです。
──大矢さんのファンの方には、今回のコラボアイテムをどんなふうに楽しんでもらいたいですか。
3種類のデザインで雰囲気が違うので、シチュエーションに合わせて使ってもらうのもいいし、3つを組み合わせて使っても面白いと思います。ミックスさせて、オリジナルの10本を楽しんでいただきたいです。
Mariko Ohya / 写真家。
日本大学芸術学部写真学科卒業。
日本大学芸術学研究科 映像芸術専攻博士前期課程修了。
自身の記憶と対峙し、内に秘めた光景を独自の色彩感覚で表現する作品を発表している。
近年の展示:
個展『La lumière』(2024, アニエスベー ギャラリー ブティック・東京)、グループ展『「elective affinities」展 PartI』(2023, アニエスベー ギャラリー ブティック・東京)、『東京好奇心 2020 渋谷』(2020, Bunkamura・東京)など様々な企画展に参加。