Interview【前編】
AYANAさん|ビューティライター

美容にまつわるライターのほか、「OSAJI」のメイクアップコレクションのディレクターとしても知られるAYANAさん。美容に関するこだわりや「OSAJI」で人気を博しているネイルポリッシュの開発秘話、日本のネイル界の変遷についてなど、さまざまなテーマについて語っていただいたインタビューを前後編でお届けします。

取材・文:岸野恵加
写真・動画:石川昂樹

 


 

色の制限がないのはすごく面白い

―AYANAさんはビューティライターという肩書きで活躍されていますが、普段はどのようなお仕事をされているんでしょうか?

ブランドとのお仕事がメインで、例えば新しいブランドがデビューするときにそのコンセプトを言語化したり、新商品のプレスリリースやリーフレットを作ったり、ということが一番多いですね。あとは雑誌の企画ページのライティングを担当したり、文章講座の講師を務めたりもしています。

―活躍の場はテキストにとどまらず、OSAJIのように、ディレクターとして商品のディレクションを手がけてもいらっしゃいますよね。

もともと会社員時代に、化粧品の企画開発をしていたんです。最初は工場内設型の店舗で、カラリストとしてオリジナルカラーのアイシャドウを作ってお客様にお渡しするという仕事をしていました。アイシャドウは色の制限がないので、すごく面白かったですね。私はアーティストチームに入りたいと思っていたのですが、イベントで自分も見せながらメイクするアーティストの方達を現場で見たり「アーティストは見た目の華やかさも大事」と言われたりするうちに「自分自身を見せることには興味がないな」と思い至りました。一方で、カラリストとして自分が作ったものでお客様に喜んでもらえるのはすごくうれしくて、そこから自然と企画開発の道に進んでいきました。

―なるほど。それらの経験が今に生きているんですね。仕事に子育てにとお忙しい毎日を送っていらっしゃると思いますが、1日のうちにどのくらい、ご自身のビューティケアに時間をかけていますか?
うーん、ちょっとお答えするのが難しいんですけど……というのも、私は自分をケアするということの優先順位がすごく低い人間なんです。自分に自信がない割にもっと自分の外見をこういう風にしたい」という願望がそこまでないというか、あまりわからなくて。なので、こういうお仕事をしていますけど、手元にある美容グッズも、自分を磨きたいというよりは実験のように試させていただいている感じに近いかもしれないですね(笑)。でも最近は、ビューティライターを名乗っているのに「外見に自信がない」と言うのも説得力がないと思うようになって。だから無責任にそういうことを言うのはやめるようにして、鏡を見る時間を増やしたりしてみています。

 ―私もまさにそうなのですが、リモート会議などで自分の顔を見る機会が増えたからか、コロナ禍に入ってから美容熱が上がっている方が多くなっているように感じます。 

家で過ごす時間が増えたことで、「おうち時間を充実させよう」という流れはかなりあると思います。マスク生活でリップの売上が低迷したりという影響はありましたが、一方で香りものやスキンケアの需要が高まったり。あとは多様性の尊重やジェンダーの平等ということが積極的に話題に出るようになって、これまで積極的に関わってこなかった方たちも、美容に高い関心を持たれるようになりましたよね。「ちょっとやってみる」レベルではなく、美容皮膚科に行くくらいの本気度の方も多くて。昔だったら考えられなかったけど、AesopやDiptyqueなどの香りのお店を覗くと、カップルで来ている方がすごく多いんですよね。コロナ禍の他にもいくつかの波が同時多発的に起きていると思うんですが、私はそういう現象について知るのがとても好きです。精神的にはどちらかというとオタク側の人間なので。

―ムーブメントを見つめることが好き?

 そうです。「この人はどうしてこういうことを考えるんだろう?」とか、想像するのも好きですね。

―普段AYANAさんがInstagramやコラムでK-POPなどへの関心を綴っていらっしゃるときにも、同じような好奇心を感じます。ちなみに自由な時間ができたときにやることや、最近のブームというと?

最近非常にハマっているのは「ミセン」という韓国ドラマですね。昔からすごく好きなのは漫画や本かな。写真集とかファッションエディトリアルが興味深い本、雑誌。そうしたものを眺めるのが昔からずっと好きです。ビジュアル面でも韓国のものが今はすごく面白くて、Qoo10などを活用して韓国から本を取り寄せたりしていますね。化粧品もですけど、すごい数を買ってしまうんですよ。この仕事は、多くのブランドの商品を直接手に取る機会に恵まれています。ですがそれに飽き足らず、自分で物色して買ってしまうんです。特にmeecoとQoo10はヘビーユーザーですね(笑)。

アーティストではなくマーケティング脳

―ハンドケアという観点では、普段どのようなケアをされていますか?

私は全身の肌が弱いんですけど、手は意外と丈夫で、ハンドクリームもそこまで必須と感じずにずっと過ごしてきました。でもここ1年くらいで、特に手が老けたんですね。この間たまたまハンドケアのサロンに行かせていただく機会があったんですけど、「手がとても乾燥してます。とにかく保湿をしてください」と言われて。それから、1日に何度も何度もハンドクリームを塗るようにしたんです。そしたらだいぶリカバリーして。非常に初歩的な答えで申し訳ないんですけど(笑)、そんな感じで最近は保湿をとても意識していますね。爪もすごく弱くて、すぐガタガタになっちゃうんですが、ハンドクリームをこまめに塗るようになったら爪の強度も上がった気がします。爪がさらにボロボロになるのが怖くて、ネイルもずっと楽しめない人間だったんですが、OSAJIでネイルポリッシュを開発するようになってからは、ずいぶん自分でも使うようになりました。 

―AYANAさんがディレクターを務めているOSAJIのメイクアップコレクションは、毎回熱い支持を受けていますよね。どんな経緯でブランドに関わることになったんでしょうか?

OSAJIは敏感肌向けのスキンケアブランドで、私は元々ライターとしてお仕事をさせてもらっていたんです。OSAJIというブランドのフィロソフィーを伝えるリリースを執筆するところからご縁が始まったんですけど、ある日「メイクアップのラインを始めるから、ディレクションをやってほしい」と言っていただいて。面白そうだなと思って引き受けたのですが、想像以上にブランドとしてのプランが決まっていなくて、何をやっていいのか全然わからない。ブランドディレクターの茂田さんには「僕はメイクのことはわからないから全部お任せします」と言われて(笑)。「ブランド名はOSAJIのままでいくのか」とかそういうところから、ブランドコンセプトと商品ラインナップを若いデザイナーの方と2人でイチから作っていきました。―本当にゼロからの立ち上げを。すごく信頼されていたんでしょうね。

メイクアップアーティストでもないただのライターにディレクションを頼むって、いまだにすごいことだなと思っているんですけど(笑)、ありがたかったですね。世の中にはいろんなブランドがあるから、OSAJIが後からそこにお邪魔するにあたり、先人たちに失礼があってはいけない、なるべく被らないものにしたい、という思いで作っていきました。最初はアイシャドウ、リップ、チークを出して、その後にリリースしたネイルが予想以上の好評をいただいたんです。今もOSAJIの中では、ネイルが一番人気かなという感じですね。

―私もOSAJIのネイルがデビューした際に友人に勧められて購入したのですが、ポリッシュを塗るのが苦手な私にもとても塗りやすかったし、絶妙な色味が揃っていて、一気に虜になりました。

ありがとうございます。私自身ネイルに苦手意識があって、ムラになったりはみ出しちゃったりということも多かったので、そういう人でも使いやすいように、というのはすごく考えています。発色が柔らかかったり、ラメを入れてムラを目立ちにくくさせたり。そこが皆さんに良いと思ってもらえたのかもしれないですね。

―ポリッシュにはそれぞれ「それから」「門」「洞窟」といったように独特な名前が付けられているのにも心をくすぐられて。ライターAYANAさんならではのネーミングセンスがとても素敵だと感じていました。 

OSAJIは「日本のブランドです」という姿勢をもともと色濃く出していたので、そのニュアンスは継承したほうがいいのだろうなと思っていました。 カラーの名前は、直接的な色の説明ではなく、どこか想像が膨らむようなものを意識して付けています。 他にもカラー名に日本語を使っているところはあるので、似ないようにというのも考えて。ブランディングの仕事をしてきたのが影響していると思うんですけど、私は「こういうものを表現して届けたい」という思いはそんなにないんですよ。「OSAJIというブランドのお客さんはこういう人かな」「新しくお客さんになってほしいのはこういう人かな」とか、そういうことを考えて作っていますね。アーティストではなくて、マーケティング脳ですよね。後編ではジェルネイル初体験というAYANAさんに、7nanaを試した感想を語っていただきました。

AYANAさんインタビュー後編は、12月29日(木)アップ予定です。

 


 

後編:「初めてのジェルネイルシールは「おしゃれなスニーカーみたい」


宮田
AYANAさんプロフィール
AYANA/ビューティライター
コラム、エッセイ、インタビュー、ブランドカタログなど広く執筆。化粧品メーカー企画開発職の経験を活かし、ブランディングや商品開発にも関わる。2021 年、エッセイ集『「美しい」のものさし』(双葉社)を上梓。
文章講座 EMOTIONAL WRITING METHOD(#エモ文)主宰、OSAJI メイクアップコレクションディレクター。

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