Interview【後編】
竹村良訓さん|陶芸家

陶芸家・竹村良訓さんと7nanaとのコラボ商品のリリースを記念してお届けしているインタビュー。後編では竹村さんが、7nanaプロデューサーのネイリスト・上原渚と対談。器とネイルの共通点や、コラボデザインの楽しみ方などについて語ります。
取材・文:岸野恵加
写真・動画:石川昂樹
前編:「今も「楽しいままに作る」マインド」
器とネイルの共通点
―ここからは7nanaのプロデュースを手がけ、今回のコラボネイルの開発にも携わったネイリストの上原渚さんも交えてお話をうかがえればと思います。器とコラボしたネイルシールという斬新な企画ですが、どういった経緯で竹村さんにお声がけすることになったのでしょうか?
上原 もともと自分がネイルアートを作っている中で、器のデザインや釉薬の質感を取り入れさせていただくことも多かったんですね。ネイルも器も、表現する空間にある程度の制限があるけど、奥行きを出していくところなどに、作業として似ているところがあるんじゃないかなとも思っていて。なのでプロダクトとしてどういうものになるのかを個人的に見てみたかったというのがあります。そして私自身が竹村さんの器自体のファンだったんです。独特の色使いが本当に魅力的だと思っていたので、今回お願いしたいなと思いました。
―なるほど。器のデザインが指先に来たらどうなるのか、という興味が、最初にあったんですね。
上原 はい。あと人気のある作家さんだと、誰でも好きなときに作品を買えるわけではないですよね。取扱店に行ける距離ではなかったり、オンラインでもすぐ売り切れてしまったり。竹村さんのように1点ものだとなおさらで。そうした寂しい思いをされている方にも、作家さんのデザインを手に取れるうれしい機会になるかなという思いもありました。
―竹村さんはこれまで、アパレルとコラボをしたり、詩を器で表現してみたり、異業種とのコラボレーションも多いですよね。そんな中で今回のジェルネイルシールというアイテムの企画は、提案を受けてまずどのように感じましたか?
竹村 僕はコラボがすごく楽しいんですよ。都度新しくお声がけをいただいて新たなチャレンジをして、新機軸が生まれていくことが多いんですよね。だから今回の7nanaさんのお話もとてもうれしかったです。今まで、ファンの方が僕の器のデザインを表現したネイルを、SNSや展示会などで見せてくれることもあったんですね。きっと写真を見せてネイリストさんにお願いしているんだと思うんですけど。なので商品化できたら面白いものができそうだな、というワクワク感がありました。

全部のシールのデザインが違うので、組み合わせが無限大
―すでに竹村さんの器のデザインを自主的にネイルに落とし込んで楽しんでいる方もいらしたんですね。今回のシールのデザインは3種類ありますが、制作はどのように進めていったのでしょうか。
上原 竹村さんのアトリエにお邪魔して、そこに並んでいる器を一緒に眺めてピックアップして。取り込んだ画像をPCで一緒に覗き込みながら「この器のこの部分を使おう」など、配置を一緒に考えていきました。最終的にネイリスト目線でバランスなどを調整した部分はありますが、基本的には竹村さんに配置していただいたものをベースにしていますね。



竹村 最初の打ち合わせのときに、僕の作品の作り方やコンセプトをお伝えしたんです。再現性がないところや、色の組み合わせを即興で決めているというコンセプトをプロダクトに盛り込めたら面白いんじゃないか、という感覚をそのときに共有できて。1シートに22枚ある中で、今回のシールは、全部デザインが違うんですよ。お客さまが楽しめるような配置を考えたことが、僕としては一番面白かったです。
―確かに、これまでの7nanaのデザインもそうですけど、ジェルネイルシールは基本的には1つのシートが1〜2種類の色やデザインで構成されているものが多いですよね。ここまで全部のシールが違う柄というのは斬新です。
上原 7nanaとしても冒険というか、挑戦というか、そんなデザインになったと思います。竹村さんのデザインには、見ていてワクワクする感じがあると思うんですが、それがそのままネイルのシートに表現されていて。「どこにどれを貼ろうかな」という楽しみが湧いてくる仕上がりだなと。
竹村 なんとなく色ごとに3つのシートに分けましたけど、全部集めて、ごちゃ混ぜに貼ってもらっても楽しめると思いますね。あとはもしシールが傷んで外れちゃったとしても、そこにまた違うピースをはめることで違う印象が生まれるので、組み合わせを楽しめるんじゃないかな。
上原 残っているシールをはめてみたら、また思いがけないイメージが生まれますよね。7nanaでも単色のデザインを扱っているので、そういうものと組み合わせても楽しめるだろうなと。オフホワイトの中にワンポイントで竹村さんのカラフルなデザインをちりばめてみたり。あまり爪を派手にできない人も、そういう遊びを楽しんでもらえそうですね。あと面白かったのが、最初にお会いしたときに「この1枚のシールを半分に切って、上下別のものを組み合わせてもいいですよね」って竹村さんがおっしゃったんですよ。それが私の中にはまったくないアイデアだったから、「わあ、やっぱり面白いな、クリエイションの仕方が全然違うところからだと斬新な発想が生まれるんだな」と。
竹村 色とりどりのカラーパレットから自分の好みのものを探って構成していくという行為は、普段の僕の創作作業ととても近いんですよ。そんな楽しみごと、使っていただく方と共有できる感じがしますね。

「これなら7nanaでピンクをやる意味がある」
上原 私としては、竹村さんの器のキーカラーであるピンクが特徴的だなと思ってます。3シートすべてに、差し色としてピンクが入ってるんですね。実は7nanaではこれまでピンクって意外と使っていなくて。私が7nanaでピンクを提案するのは、こっぱずかしいような感覚もあったし、ピンクは他のネイルシールのブランドさんからたくさん出ているので、7nanaでやる必要もないかなと考えていたのもあり。でも竹村さんのビジュアルイメージをお借りしたら、物語性のあるピンクが出せて、「これなら7nanaでピンクをやる意味があるな」と思えました。
竹村 ピンクは釉薬作りでもけっこう苦戦する色なんです。ターコイズブルーやグリーン系も同じくなんですけど。ピンクの色のもとは実はグリーンで、化学実験のように金属をある割合で反応させて、このピンクを生み出しているんです。その中でムラがあったり、1つひとつ違うツヤがあったり、奥行きがあるものなんですけど、今回のシールは現物を取り込んでいるので、細部のグラデーションや色の交わり合いの部分が再現されているのが楽しみです。
上原 サンプルを見て、データとして1から色を作るのとはやっぱり違う質感になったなと感じました。そこにまたジェルがぷっくり乗ると、さらに奥行きが出ますよね。
―ちなみに、インタビュー前編で竹村さんから「今の好みとは2年前とはちょっと違う」というお話がありましたが、今の好みとしてはどんな色味なんですか?
竹村 このちょっとマーブルっぽい模様の入った「211:manimani(販売前)」のデザインが特に好きですね。3年ぐらい前に始めた「練り込み」という技法を用いているんですが、釉薬での色の表現とは違って、色の粘土を作り、混ぜ込む技法なんです。そうするとこういう大理石のような模様になる。そうした新たなイメージは気に入っていますね。
上原 ジェルネイルシールは最後にトップコートを塗るんですが、そうすることでさらに陶器の質感に近くなるんです。ツヤツヤとしたもののほか、マットなトップジェルもありまして、そちらを塗るとすりガラスっぽいような印象というか、ツヤのない竹村さんの器の質感に近いものが出せるんですよ。そのあたりもお客さまの自由な感性で楽しんでもらえたらなと思いますね。

日常を楽しむためのツール
―ちなみに竹村さんは、ジェルネイルシールという商材のことはもともとご存知でしたか?
竹村 紫外線硬化樹脂という技術を使うことは工芸の範疇ではたびたびあるんですよ。なので知ってはいました。ただここまで使いやすいものになっているとは思わなかったです。いただいたサンプルを生徒さんが使っているのを見て、「シールとは思えないな、すごいな」と思いましたね。
―最初に上原さんから「ネイルと器に、表現媒体として近いものを感じる」というお話がありましたが、竹村さん的にはそこはどう感じますか?
竹村 僕は、材料を触ってものづくりをするという大枠で言うと、全部同じだと思っているんですけど、作品が生かされるのは、人々の生活の中であってほしいなという思いを持っているんです。器とネイルには、そこですごく近いものを感じましたね。日常を楽しむためのツール、という。美術館に展示されたり、パブリックアートのようなものになることを目指す作品もあると思うんですけど、生活空間の中に溶け込んで楽しんでもらえることが僕は好きで。ネイルもまさに、そういうものなんじゃないかなあと。

―なるほど。崇めて鑑賞されるものではなく。
竹村 普段の自分に一番近いところにあって、見て楽しい、ちょっとテンションが上がる、というのは、ネイルも器も同じような気がします。あと個人的に楽しみなのは、ネイルシールをつけた手元で器を持つと、2つがすごく近いポジションになるじゃないですか。そんな瞬間をとらえたビジュアルを見たいですね。
上原 このシールを着けて竹村さんのマグカップを持った瞬間なんて、絶対に気分が上がりますよね。ぜひ使った方にはそんな写真をインスタに上げてほしいです。
竹村 シールは水仕事をしても取れないんですよね?キッチンで器を洗っているカットとかも絶対に素敵だと思うので、見たいですね。
―最後に、「こんな方にこのシールを使っていただきたい」というイメージは何かありますか?
竹村 普段シンプルであまり色味のないファッションの方が、このシールで爪だけカラフルにしたりしてもかわいいだろうなと思います。
上原 そうですね。今までカラフルなデザインに挑戦したことがなかった方も意外と多いと思うので、そうした方々にも試してみてもらいたいです。元気が出る、チアフルな感じがすごくあるデザインだと思うので。たぶん竹村さんのファンの中には、今まであまりネイルに興味のなかった方もいらっしゃると思うんです。そうした方やライフスタイル系のプロダクトが好きな方にも、ジェルネイルシールというものが目に入る機会だと思うので、「ネイルが派手なのもかわいいな」と思ってもらえたらうれしいですね。
竹村 逆に7nanaから僕のことを知ってもらえる可能性もあるでしょうしね。
上原 はい。まさにお互いのファンが行き来するような、コラボならではの新しい出会いがたくさん生まれていくのがとても楽しみです。


2003 武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科(木工専攻)卒業
2005 東京芸術大学大学院 保存修復学科(工芸)終了
文化財修復を修め、同時に陶芸学科で古陶磁の研究・復元制作にも努める
在学中より、漆芸技法の応用による陶磁器・漆器修復の仕事をはじめる
2008 陶芸教室「陶房 橙」を開く
